ああもう、顔を上げても、見渡したって、あいつは居ないんだ。
そう実感したら、また涙が零れそうになった。
悔しいから無理矢理に引っ込めたいけど、どうにかなるもんじゃなくて。

見上げた青空の色に、あいつの姿が重なって、
思わず空を恨んだりもした。


“TALES OF PHANTASIA”
『空よりも遠い青』

その魔女は、いつだって突然にやって来る。
だから、今日彼女がこの家の主に会えなかったのは、まったくもって彼女の所為だった。

「ごめんなさいね。アーチェちゃんが来るって手紙では知っていたけど、いつ来るのかは解らなかったものだから」

微笑んで、お茶を淹れるのはここの主人の助手。
アーチェの手紙が届いたのは昨日の今日だなんてのは不問にしてくれる様子。

「気にしないでよ〜。どうせ買い物のついでに寄っただけなんだし。ん、おいし♪やっぱミラルドさんのお茶は最高じゃん♪」

御機嫌な魔女はお茶とお菓子に夢中になる。














「でね、チェスターったら酷いんだよ!ひとのこと××料理人〜だなんてさ!
・・・そりゃあ、ちょーっとばかし失敗だとは思ったけど〜」

「あいつったらお風呂覗いてやがんの!もうあったまくるったら!」



「ダオスをだおす〜だって。笑えないよねぇ、まったく2人とも」

旅の思い出は尽きなくて、話すアーチェも、聴くミラルドも笑顔。



「ネコババするなだなんて、ムカツク〜!」

「ふふ、本当に、楽しそうね」
「へ?いや、むしろどかーんって魔法でもぶちかましたいくらいに」
「そうじゃなくて。アーチェちゃん、あの旅の話をするとき、とっても楽しそうだから」














「そ、そんなことないない!あたしはいつでもお気楽極楽だし!」
赤くなって否定する。



「あらあら照れることないじゃない。クラースだって楽しそうよ?旅の話をするの」
「う、まぁ、う〜」

くすくすと笑って、
「本当に好きなのねぇ」
「はぅ?!」
ビクッとするアーチェ。

「クレス君達のこと」
「そ、そっちか・・・ほっ」
耳まで赤くして冷や汗を拭うアーチェに、不思議そうに首を捻るミラルド。
「・・・チェスター君って言ったっけ?その子のこと好きなんでしょう?」
不意打ちの言葉に固まるアーチェ。

「ちがっ!あんなの好きでもなんでもないって!うん!」
「そう?でもさっきから、その彼の話ばかりしてたわよ?」
「そんなこと!・・・あ、る、かなぁ・・・?」
自分の台詞を思い出して後悔中。

「でも、やっぱ、だめだよ。好きになっちゃ・・・好きじゃ、ないよ」
「アーチェちゃん?」

「だってさ!別の時間の奴だよ?
『今』には居ない奴だよ?
あいつら、みんな、居ないもん」

「・・・でも、逢えるんでしょう?」
「100年も!待たなきゃダメなんだよ?!」
叫び、俯く。



「またね、って言ったけど、『また』は・・・あたしにとっては、100年後なんだ・・・」





「ねぇ、ミラルドさんは・・・。辛くなかったの?」
俯いたまま、呟く。

返らない返事に不安になって、そろりと目線を上げると、ミラルドの微笑が見えた。

「ミラルドさん?」

「・・・帰って来るって、約束してくれたから」
ミラルドの声は優しい。

「信じていたもの。
不安じゃなかったって言ったら嘘になるけど・・・、
私は、クラースを待って、あの人が帰って来る場所を守りたかったの。
学校のことで忙しくてそれどころじゃなかった、っていうのもあるけれど」

最後は冗談めかして。

「でも・・・!本当に帰って来るかなんて、わかんなかったのに?」
泣きそうな顔で訊いてくるアーチェに、ミラルドはまっすぐに答える。

「あの人は、偏屈だし、ちょっとまぬけなところもあるけれど、私との約束は絶対に破らないわ。
どんなことがあっても、どんなことをしても」

「あたしは・・・」
目を逸らすアーチェ。

「あたしは不安だよ。
きっと逢える、大丈夫って、信じてるのに・・・信じてるけど・・・、
100年も待つことも辛いけど、
何よりも・・・
不安なのは・・」

肩が小さく震える。

「あいつ等のこと、忘れちゃったらどうしようとか、
逢った時に、あたしのこと解らなかったらどうしようだとか、
そんなことばかり考えちゃう。

あたしは・・・
好きな気持ちを、このまま持ってられるのかが心配なの」

ぽとりと、落ちる雫。

「そんな自分が、悔しくて、嫌なんだ・・・」

「・・・アーチェちゃん」

















どれくらいの間、泣いていたのだろう。
気付いた頃には、ずいぶんと影が長くなっていた。



ずっと黙って、側に居てくれたミラルドが、そっと口を開いた。

「待ってると、変わることが、怖くなるのよね」
何を言われたのか解らず、見返すアーチェ。

「でもね、人も、気持ちも、変わらないなんてこと、たぶん、無いんだわ」
自嘲気味に微笑む。


「ねぇアーチェちゃん・・・
あなたは、これからいろんな人に出会ったり、別れたり、いろんなことを体験するわ。
誰かを好きになることだってあるかもしれない。
ずっと変わらないでいるなんて無理だし、あの子達のことを今と同じに思い続けることって、案外難しいと思うの。

でもね、どんなに変わっても、アーチェちゃんはアーチェちゃんだし、
好きな気持ちも・・・
どんな『好き』に変わるか、わからないでしょう?

それなら、あの子達がびっくりするくらいに、素敵な女の子になっちゃうのもいいし、
もっともっと、あの子達のこと、好きになったっていい」


「ミラルドさん・・・」

「100年なんて、待つ時間にしては長過ぎだし、正直私なんかじゃ経験しようもない時間だけれど、
たぶん・・・ううん、きっとね、
あの子達は見つけるわ。
あなたがどんなに変わったって、
もしもあなたが、あの子達に逢いたくないなぁって思っても、きっと見つけるわ」

「・・・うん」

「あなたが、あなたでいれば大丈夫」
「そっかな?」
「ええ」

笑い声が、茜色に染まりつつある部屋に響いた。















空は青から赤に変わって、そのうち紫から暗紺の夜空に変わるんだろう。
朝になってまた真っ青な空が広がっても、あたしは笑えるのかな?

一日が巡っても、季節が変わっても、あいつ等に逢えるのはずっと先のこと。

でもきっと、

宵闇に迷っても、青空を見上げたら、あの青を思い出せる。
とおく遠く時の向こう、未来で出会ったことを、懐かしく思い出せる。




ああ、なんだか、青空に笑われたような気がした。
〜fin〜



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後記

どうも、駄文ですみません。こに〜です。
実は、この題名、最初は「過去に着いたクレス君がチェスターを想う話」の予定で付けた題名だったりします。
しかしそれを書く前に、アーチェさん視点ED後でラクガキを描いて以来、クレス君ばーじょんとアーチェさんばーじょん、どっちで書くか彷徨い続けて約2年(筆不精)
「過去に戻ったアーチェさんがチェスター(達)を想う話」です。

結構いきあたりばったりで書き上げたので、文章がおかしい部分もなきにしもあらずですが、たのしんでいただければ幸いです。