Tales of Phantasia
ゆったりとした空気。 暖かな午後の日差し。 穏やかに流れる時間。 と、 一陣の風が、彼が日除けに顔に被せた帽子を落す。 日に透ける銀の髪が、さらさらとこぼれる。 クラース・F・レスター 一般的に評せば、変わり者の魔法研究者。 ついこの間まで、未来の世界を旅していた。と言っても、どれだけの者が信じるだろう。 一応、この時代においても、ヴァルハラ戦役勝利の立役者、そして、ダオス討伐の英雄となってはいるのだが。 「ぅ…んん?」 秋も終わりとはいえ、昼の日差しは眩しい。 クラースは、昼寝の終わりを惜しむように、寝返りを打って…しかし、不意に感じた居心地の悪さに、薄く目を開ける。 視界に入ったのは、至近距離の…ちょっと怒ったような瞳で見つめてくる、よく見知った女性の顔。 「うわぁ?!」 跳ね起き、一気に覚醒の方向へと走る頭脳に多少の眩暈を感じながら、彼は疑問を口にする。 「ミ、ミラルド!いつからそこに…!!」 慌てた様子の彼を、じっと見上げて、彼女は答える。 「私、クラースみたいに暇じゃないもの。ついさっきよ。」 「私だって、別に暇なワケじゃあないぞ!ただ…」 言いよどむクラース。 「ただ、なによ。」 睨んでくる、真っ直ぐな瞳。 暇ではない。本当に。やるべきことは幾らでもある。 召喚術に関する論文もまとめなくてはならないし、魔法研究所のことも、いつまでもミラルドに任せっきりにしているわけにはいかない。そして、エターナルソード…時空の剣の封印も…。 なのに、何もやらないでいる理由は。 別に、疲れている訳ではない。嫌なことでもない。ただ、それよりも大切な…やるべきことを、未だに上手くやれずにいるために、何にも取掛かる気になれないだけ。 「…やる気が起きないんだよ。」 「嘘じゃないけど、正確じゃないわね。」 ――――――完全に、見抜かれているな 苦笑することしか、できなかった。 「リア……。アタシ、未来に行ってきたんだよ。」 鐘の音が、聞こえる。 真新しい墓標。 架けられた、少々形のいびつな花輪。 「…大切な人、見つけたんだ。きっと、また逢えるって、約束した……。」 ここは、魔王・ダオスの為に犠牲となった、ハーメルの人々が眠る場所。 白い墓標が、…ハーメルに居た人の数だけ、並ぶ所。 ユークリッドとベネツィアの人々の厚意によって作られた墓地。 「見守っていてくれる…よね!」 高く澄み渡る空を、その真紅の瞳で、少女は見上げる。 アーチェ・クライン。 ハーフエルフの魔術師。現在、人間である父親との二人暮し。 クラースと同じく、未来を旅した者。 白い煙が、煙突からゆったりと立ち昇っている。 ローンヴァレイ。シルフの棲む谷の入り口にその小屋はある。その小さな台所では…。 「カモミールにタイムにディル、それからラベンダー!それぞれ一束づつ!」 言いながら、乳鉢にハーブを入れていく。 「んで、苦いのヤだから、ハチミツ少々……。れ?あれれ?」 今まで鮮やかな緑色をしていた中身が、見る間にどす黒く変色する。 「なんでぇ〜っ?」 「アーチェ…」 後ろから、溜息一つ。 「と、父さんったら、寝てなきゃだめじゃん。風邪こじらせるよぉ?もう、いい年なんだからさ!」 慌てて隠しながら、ごまかそうとするのだが。 「まったく…誰に似たんだか…。そんなんじゃあ、良い嫁さんになれないぞ?」 「な☆ なによ、それぇ!」 ぱあっと頬を染める赤。 「なんだ、もうそんな相手がいるのか。」 ちょっと淋しそうな嬉しそうな表情で頷くバート。 「そ、そんなん居ないモン!もう、折角風邪薬を作ってあげようとしたヤサシー娘に、なんてこと言うのよ!」 そう言って、益々赤くなる顔を隠すように、アーチェは家から飛び出していってしまった。 「…そうか、そうだな…。あいつも、そんな年頃なんだな…。」 勝手に納得しつつ、無残な姿をさらす乳鉢の…薬になるハズだったらしい物体を見やる。 「………コレを飲まされるところだったのか…?」 どうやら娘には、料理と同じく調合の才能も無いようだ…。 ユークリッド村の夜は暗い。ほとんどの家は、早々に明かりが消え、明日への準備へと入る。 ただ一軒、クラース魔法研究所を除いては。 ランプの灯りのもと、カリカリとペンの走る音が続く。 『とりあえず、なんでもいいからやりなさいよ!』 昼間言われた言葉を思い出す。 『こんなの…私の…きなクラースじゃないんだから…』 ぴたりと、ペンが止まる。 「べ、別に、言われたからやっている訳ではないぞ!」 誰にともなく、言い訳をしてしまう。 ――――――そうだ、私はもともとやろうと思っていたことをやっているだけだ! 今彼が書いていたのは、召喚術の体系と実践についての論文。 ――――――これを速く世に出して、学会のヤツラをぎゃふんと言わせてやる! きっかけがなんであれ、元来、自分が生涯を賭けてでもやりとげようという仕事なのだ。それで、こんな夜中まで熱中して書き続けている。 ある意味完全に操られていると言えなくもないのだが…。 キィッ 小さく軋んだ音を立て、扉が開く。 「…クラース?まだ起きてるの?」 小さな声で尋ねながら入ってきたミラルドは、物を書く姿勢そのままで、ぐっすりと眠ってしまっているクラースに気づく。 「…ふふ、器用な寝相ね。」 机上の論文を、汚れないようにまとめ、片付ける。 「さて、この人はどうしようかしらね。」 ミラルド一人の力では、ベットまで運ぶのは無理だ。でも、起こしてしまうのもかわいそう…。 起こさないように、そぉっと、毛布を掛けてやる。 「きっと、朝になったらどこか攣ってるわね…。」 無理な姿勢のままで眠り続けるその人を見つめながら、囁く。 「まったく、両極端なんだから。」 一旦のめり込んだら、ちょっとやそっとでは戻って来ない性格に、苦笑する。 カタン コト 「もう、あのクソ親父!!年頃の娘をからかって、なにが楽しいんだか!」 カタン 「二度と薬なんか作ってやんない!」 一人ブツブツと言いながら、アーチェは薬草の整理をしていた。 クライン家の主収入源、バートの薬の材料である。 大抵のものはバートとアーチェが、ローンヴァレイで集めてくる。 コト 「あれ?」 ふと、手を止める。 「コリアンダーがきれてる…。あ、セージも残りちょびっとしかないや。」 両方とも、この谷には自生していない。 「明日ハーメルまで買いだしにいかなきゃ…あ。」 ――――――馬鹿だな、アタシったら… ハーメルは、もう、無いのに。 「…ユークリッドまで行こうかな。久しぶりに、クラースとミラルドさんに会いたいし…。」 夜は更けていく…。 |
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アトガキ★ なんか、今回、バランス悪いですね。話の流れ。 クラースさんパートが長い…。 愛はアーチェにもミラルドさんにもバートさんにも(爆)あるのですが。 |