ある物語が終わりを告げ、そして、ここに新たなる物語が幕を開ける…。
遠く、近く、流れ来る時空の物語…。

Tales of Phantasia
「〜夢物語は続く〜」
第二話 取り戻した日常

ゆったりとした空気。
暖かな午後の日差し。
穏やかに流れる時間。
と、
一陣の風が、彼が日除けに顔に被せた帽子を落す。
日に透ける銀の髪が、さらさらとこぼれる。

クラース・F・レスター
一般的に評せば、変わり者の魔法研究者。
ついこの間まで、未来の世界を旅していた。と言っても、どれだけの者が信じるだろう。
一応、この時代においても、ヴァルハラ戦役勝利の立役者、そして、ダオス討伐の英雄となってはいるのだが。

「ぅ…んん?」
秋も終わりとはいえ、昼の日差しは眩しい。
クラースは、昼寝の終わりを惜しむように、寝返りを打って…しかし、不意に感じた居心地の悪さに、薄く目を開ける。
視界に入ったのは、至近距離の…ちょっと怒ったような瞳で見つめてくる、よく見知った女性の顔。
「うわぁ?!」
跳ね起き、一気に覚醒の方向へと走る頭脳に多少の眩暈を感じながら、彼は疑問を口にする。
「ミ、ミラルド!いつからそこに…!!」
慌てた様子の彼を、じっと見上げて、彼女は答える。
「私、クラースみたいに暇じゃないもの。ついさっきよ。」
「私だって、別に暇なワケじゃあないぞ!ただ…」
言いよどむクラース。
「ただ、なによ。」
睨んでくる、真っ直ぐな瞳。
暇ではない。本当に。やるべきことは幾らでもある。
召喚術に関する論文もまとめなくてはならないし、魔法研究所のことも、いつまでもミラルドに任せっきりにしているわけにはいかない。そして、エターナルソード…時空の剣の封印も…。
なのに、何もやらないでいる理由は。
別に、疲れている訳ではない。嫌なことでもない。ただ、それよりも大切な…やるべきことを、未だに上手くやれずにいるために、何にも取掛かる気になれないだけ。
「…やる気が起きないんだよ。」
「嘘じゃないけど、正確じゃないわね。」
――――――完全に、見抜かれているな
苦笑することしか、できなかった。



「リア……。アタシ、未来に行ってきたんだよ。」
鐘の音が、聞こえる。
真新しい墓標。
架けられた、少々形のいびつな花輪。
「…大切な人、見つけたんだ。きっと、また逢えるって、約束した……。」
ここは、魔王・ダオスの為に犠牲となった、ハーメルの人々が眠る場所。
白い墓標が、…ハーメルに居た人の数だけ、並ぶ所。
ユークリッドとベネツィアの人々の厚意によって作られた墓地。
「見守っていてくれる…よね!」
高く澄み渡る空を、その真紅の瞳で、少女は見上げる。

アーチェ・クライン。
ハーフエルフの魔術師。現在、人間である父親との二人暮し。
クラースと同じく、未来を旅した者。

白い煙が、煙突からゆったりと立ち昇っている。
ローンヴァレイ。シルフの棲む谷の入り口にその小屋はある。その小さな台所では…。
「カモミールにタイムにディル、それからラベンダー!それぞれ一束づつ!」
言いながら、乳鉢にハーブを入れていく。
「んで、苦いのヤだから、ハチミツ少々……。れ?あれれ?」
今まで鮮やかな緑色をしていた中身が、見る間にどす黒く変色する。
「なんでぇ〜っ?」
「アーチェ…」
後ろから、溜息一つ。
「と、父さんったら、寝てなきゃだめじゃん。風邪こじらせるよぉ?もう、いい年なんだからさ!」
慌てて隠しながら、ごまかそうとするのだが。
「まったく…誰に似たんだか…。そんなんじゃあ、良い嫁さんになれないぞ?」
「な☆ なによ、それぇ!」
ぱあっと頬を染める赤。
「なんだ、もうそんな相手がいるのか。」
ちょっと淋しそうな嬉しそうな表情で頷くバート。
「そ、そんなん居ないモン!もう、折角風邪薬を作ってあげようとしたヤサシー娘に、なんてこと言うのよ!」
そう言って、益々赤くなる顔を隠すように、アーチェは家から飛び出していってしまった。
「…そうか、そうだな…。あいつも、そんな年頃なんだな…。」
勝手に納得しつつ、無残な姿をさらす乳鉢の…薬になるハズだったらしい物体を見やる。
「………コレを飲まされるところだったのか…?」
どうやら娘には、料理と同じく調合の才能も無いようだ…。



ユークリッド村の夜は暗い。ほとんどの家は、早々に明かりが消え、明日への準備へと入る。
ただ一軒、クラース魔法研究所を除いては。
ランプの灯りのもと、カリカリとペンの走る音が続く。
『とりあえず、なんでもいいからやりなさいよ!』
昼間言われた言葉を思い出す。
『こんなの…私の…きなクラースじゃないんだから…』
ぴたりと、ペンが止まる。
「べ、別に、言われたからやっている訳ではないぞ!」
誰にともなく、言い訳をしてしまう。
――――――そうだ、私はもともとやろうと思っていたことをやっているだけだ!
今彼が書いていたのは、召喚術の体系と実践についての論文。
――――――これを速く世に出して、学会のヤツラをぎゃふんと言わせてやる!
きっかけがなんであれ、元来、自分が生涯を賭けてでもやりとげようという仕事なのだ。それで、こんな夜中まで熱中して書き続けている。
ある意味完全に操られていると言えなくもないのだが…。

キィッ
小さく軋んだ音を立て、扉が開く。
「…クラース?まだ起きてるの?」
小さな声で尋ねながら入ってきたミラルドは、物を書く姿勢そのままで、ぐっすりと眠ってしまっているクラースに気づく。
「…ふふ、器用な寝相ね。」
机上の論文を、汚れないようにまとめ、片付ける。
「さて、この人はどうしようかしらね。」
ミラルド一人の力では、ベットまで運ぶのは無理だ。でも、起こしてしまうのもかわいそう…。
起こさないように、そぉっと、毛布を掛けてやる。
「きっと、朝になったらどこか攣ってるわね…。」
無理な姿勢のままで眠り続けるその人を見つめながら、囁く。
「まったく、両極端なんだから。」
一旦のめり込んだら、ちょっとやそっとでは戻って来ない性格に、苦笑する。



カタン コト
「もう、あのクソ親父!!年頃の娘をからかって、なにが楽しいんだか!」
カタン
「二度と薬なんか作ってやんない!」
一人ブツブツと言いながら、アーチェは薬草の整理をしていた。
クライン家の主収入源、バートの薬の材料である。
大抵のものはバートとアーチェが、ローンヴァレイで集めてくる。
コト
「あれ?」
ふと、手を止める。
「コリアンダーがきれてる…。あ、セージも残りちょびっとしかないや。」
両方とも、この谷には自生していない。
「明日ハーメルまで買いだしにいかなきゃ…あ。」
――――――馬鹿だな、アタシったら…
ハーメルは、もう、無いのに。
「…ユークリッドまで行こうかな。久しぶりに、クラースとミラルドさんに会いたいし…。」

夜は更けていく…。


アトガキ★
なんか、今回、バランス悪いですね。話の流れ。
クラースさんパートが長い…。
愛はアーチェにもミラルドさんにもバートさんにも(爆)あるのですが。


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